肯定され過ぎと感じるとクールになる、と最初の方にも書いた。質問の意図の単純さを警戒するのだろう。複雑ゆえに、矢部は用心深い。クールに反応してから、少しずつ答える。

「みんなが出るから出るというのは、すごく違和感があります。得意だったら出たかもしれないですが、得意じゃないですし」

 ネタ作りは好きだと言っていたが、と食い下がると、「小学校の時に、徒競走っていうんですかね」と話を始めた。「途中で走るの、やめたんです」と。

 何年生だったかは記憶がないが、親にも先生にも怒られた。「並ばされて走ってるけど、何をしてるんだろって思っちゃって。そういうことを感じる局面、今でもいっぱいありますね」

 背が低い自分に徒競走は勝てない。M-1も見たら感動するが、自分向きでない。何より、同じルールで競い合う、そういうもの全般に馴染(なじ)めない。そんな話をポツリポツリと続けた。そして、

「自分のことは、ちょっと批評的に見たいなと思っているかもしれないですね」

 こういう矢部を、板尾が適切に表現した。

「矢部太郎はある意味、矢部太郎のプロですよ」

(文中敬称略)

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