肯定され過ぎと感じるとクールになる、と最初の方にも書いた。質問の意図の単純さを警戒するのだろう。複雑ゆえに、矢部は用心深い。クールに反応してから、少しずつ答える。

「みんなが出るから出るというのは、すごく違和感があります。得意だったら出たかもしれないですが、得意じゃないですし」

 ネタ作りは好きだと言っていたが、と食い下がると、「小学校の時に、徒競走っていうんですかね」と話を始めた。「途中で走るの、やめたんです」と。

 何年生だったかは記憶がないが、親にも先生にも怒られた。「並ばされて走ってるけど、何をしてるんだろって思っちゃって。そういうことを感じる局面、今でもいっぱいありますね」

 背が低い自分に徒競走は勝てない。M-1も見たら感動するが、自分向きでない。何より、同じルールで競い合う、そういうもの全般に馴染(なじ)めない。そんな話をポツリポツリと続けた。そして、

「自分のことは、ちょっと批評的に見たいなと思っているかもしれないですね」

 こういう矢部を、板尾が適切に表現した。

「矢部太郎はある意味、矢部太郎のプロですよ」

(文中敬称略)

※記事の続きはAERA 2022年11月28日号でご覧いただけます。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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