クリーニングの袋のままの衣装を持ってスタジオ入りした(撮影/篠塚ようこ)
クリーニングの袋のままの衣装を持ってスタジオ入りした(撮影/篠塚ようこ)

 役者としても活躍する吉本興業の板尾創路(59)は、映画も撮る。監督作品「月光ノ仮面」(12年)、「火花」(17年)に矢部を起用、個人的にも親しい。「板尾さんと親しいのが、矢部の笑いのセンスの証し」と言ったのは片山だが、板尾は「矢部に面白さは当然あります。でも僕は笑いより被写体、役者としての期待の方が強い」と言う。そして、矢部の魅力を「ファンタジー」と表現した。

「男なのか女なのか、一瞬わからなくなるんですよ。おじいちゃんでもおばあちゃんでもあり、おっさんでもおばはんでもあり。そうかと思うと子どもみたいで。現実は40を越したおっさんで、その上、すーっと人の心に入ってくる。そういう不思議なファンタジー」

 カメラ越しの矢部は違和感を放ち、それが生きるリアルさと感じられ、目が追ってしまうと板尾。その存在感はどこから来たのかと問うと、「頭の良さ、そして体形ではないか」と返ってきた。

「体力も腕力もないからいじられて、強いやつに押さえつけられて、そんな青春やったと思うんです。その積み重ねが彼の中に溜(た)まって、ちょっと歪(ゆが)みかけて、バネになっていると思います」

“いじられ芸人”として納得のいかない扱われ方も多かったはずで、言い返すかわりに人を観察してきただろう、と板尾。「だからあいつ、世間に対して、厳しいときは厳しいですよ」

 重なったのが、片山が口にした「黒矢部」という表現。ダークな、野心的な側面もあって矢部なのだ、と。そして板尾と片山に共通していたのが、漫画家としての成功は必然だったということ。

■みんなが出るから出る 徒競走もM-1も違和感

「負けず嫌いの矢部がふつふつと、いつか、いてこましたる、と思っていたと思う」と片山。板尾は「芸人としては『いじられ笑われる』という関係性が固まっていて、俳優の仕事もオファーを待つしかなく、どちらも自分ではコントロールできない。そこに漫画という自分で勝負できるものが見つかった。方向を定め、あとは結果を出したということでしょう」

 お笑い界で勝負といえば、M-1グランプリだ。入江によれば「(予選に)出たい入江」対「出たくない矢部」で、よくもめたという。「俺ら、芸人だろ」の入江に、矢部は「違うところで戦ってもいいんじゃない」。入江は一人芸のR-1に出ることにした。「芸人のふりをするのが、矢部は好きじゃないんで」

 矢部に聞くと「出ましたよ、何回か。もともと芸歴が長いんで、そんなに出られないっていうか」

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