「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」には矢部太郎役で出演(撮影/篠塚ようこ)
「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」には矢部太郎役で出演(撮影/篠塚ようこ)

 肯定され過ぎと感じると、冷めた反応をする。それが矢部だという話は後述する。こう続けた。

「年齢もあって、いろいろな別れもありました。変化は続いていくし、そう思えば結局は今しかない。生々流転、しっくりくるかもしれないです」

 トナたろうは、よく屋上に行く。楽屋に自分の居場所がないと感じると、行く。

<今日の失敗もちっぽけに思えてくるなあ… 大きな空が僕の楽屋だ>

 油断すると、泣かされる。罪深きトナくん。モーニング編集部の担当である加藤大(44)は、「ほんわかしたタッチで、エンターテインメントの厳しさを描いている。そのギャップが心をつかむのだと思う」と言った。そしてこんな分析も。

「お笑いの世界にちょっと迷い込んでしまった人が観察している。そんな感じのする作品だと勝手に思っています」

「迷い込んだ」が腑(ふ)に落ちるのは、しのぎを削るお笑いの世界で矢部がすごく珍しいタイプだから。例えば矢部は毎週水曜日、UTY(テレビ山梨)の「スゴろく」に出演している。2016年、「ウッティタウン6丁目」でレギュラーになって以来の出演だ。なのに、こんなふうに言う。

「東京から通わせてもらっていいのだろうかというような気持ちは、あります。疑いなく全ての場面で自分が中心になってフィットする人もいると思うけど、僕はそうじゃないなって。そんなことずっと感じているかもしれない」

 高校の同級生・入江君に誘われて、この世界に入った──。矢部はいつもこう説明する。都立保谷高校の文化祭で「コントをしよう」と誘われた、と。なぜ、矢部をお笑いの世界に誘ったのか、入江慎也(45、ハウスクリーニング会社「ピカピカ」社長)に聞いた。

 入江の語りは明るかった。ひばりが丘パルコが高1の時にできて、そこに集まっていたら矢部も来て、保谷高校の“ギャル四天王”の一人と矢部はつきあっていて、矢部は時事ネタで笑いを取っていたけど、自分の方が面白いと思っていて……。青春グラフィティーに苦さが加わったのは、「天才たけしの元気が出るテレビ」のオーディションから。合格し収録に行ったら、ビートたけしがいじったのは矢部。「僕が応募したのに何で、って」

■「滑稽は悲しみと表裏」 生きるリアルさがある

 卒業し、大学と専門学校と進路は分かれたが、お笑いは続けた。「いいとも言われなかったけど、嫌とも言われなかったから」と入江。渋谷公園通りの劇場にネタを見せに行ったことがきっかけで、在学中に吉本興業へ。「入ってから、矢部って面白いんだと気づきました。テレビに出てからは、もう嫉妬ですよね」

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