問題は、実際にどのようにして人の移動を減らすかだ。これまで繰り返されてきた緊急事態宣言で、国民に「自粛」を促しても効果が薄れているからだ。
感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法では、個人に罰則付きの行動制限を課すことはできない。だからといって、何もできないわけではない。災害時の法律運用に詳しい津久井進弁護士は言う。
「台風上陸が予想されると、鉄道会社は計画運休をします。それと同様に、新型コロナを災害ととらえ、電車を3日程度運休すれば人の動きを抑えることは可能です」
津久井氏は、短期集中型のロックダウンを主張する。
「今の緊急事態宣言は、終わりが見えず、ダラダラと続けている。それよりも短期集中でピンポイントで実施したほうが負の影響は抑えられる。政府は、今の状況が災害であると認識して、即効性のある対策をしていくべきです」
与党内には、ロックダウンには憲法改正をして緊急事態条項を入れる必要があるという意見もある。国民民主党の会派に所属する高井崇志衆院議員は、それに対してこう反論する。
「東京電力福島第一原発事故では、原子力災害対策特別措置法によって、周辺の住民は今でも帰宅が許されていません。現行憲法でも、生命の安全に関わることは一定程度の私権制限は認められています。ロックダウンも現行憲法で可能で、補償と罰則をセットにした法律を与野党が協力してすぐにつくるべきです」
だが、菅首相は野党が求めている臨時国会の開会を拒否し続けている。そこには、コロナ対策の相次ぐ失敗で八方ふさがりになり、政治的に窮地に立たされてしまった菅首相の苦境がある。
9月5日にパラリンピックが閉会した後、菅首相は9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える。それまでに党総裁選を実施し、11月までに総選挙もしなければならない。総裁選をめぐっては、下村博文政調会長や高市早苗前総務相らが出馬の意向を表明し、政局含みだ。自民党関係者は「このまま菅首相を衆院選の『顔』にするのか。いつ菅おろしが始まってもおかしくない」と話す。
一方、石破茂元幹事長や小泉進次郎環境相が早々と菅続投支持を表明するなど、総裁選を無投票で乗り切ろうとする動きも見え隠れする。
西武学園医学技術専門学校東京校校長の中原英臣氏(感染症学)は言う。
「デルタ株は子供も発症し、家庭内感染を防ぐことは難しい。にもかかわらず、小中学生らにパラリンピックを観戦させようとしている。菅首相の政治的判断の失敗のために子供たちを犠牲にしていいのか。国民に約束した『安全・安心』の大会開催は失敗しました」
(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 2021年9月3日号より抜粋