そのことを象徴するような場面もあった。菅首相は感染抑制のためのロックダウンについて記者から聞かれると、右手の拳を握って「世界でロックダウンをする、外出禁止に罰金かけてもなかなか守ることができなかったじゃないですか」と語気を強めた。ニュージーランドなど、ロックダウンで感染を抑えた国はたくさんある。しかし、そのことには触れることはなかった。
24日には東京パラリンピックが開幕。大会関係者はこう話す。
「オリンピックが閉幕しても、その約2週間後に始まるパラリンピックでは感染者が急増するのは最初からわかっていた。なのに政府は抜本的な対策を何もしていない。最悪の状況での大会になってしまった」
だが、感染爆発が現実のものになった今の状況でも、やれることはまだある。そんな可能性を示す研究もある。
筑波大の倉橋節也教授(社会シミュレーション学)は、限定的なロックダウンをした場合、東京都の15歳以上の感染者数と重症者数の推移について、AI(人工知能)を使って予測した。
試算では、8月13日19時時点の東京都内の主要繁華街の滞留人口を基準にして、人出がどの程度減ったら感染者数が抑制されるかをシミュレーションした。
その結果は驚くべきものだ。滞留人口が減らない場合、東京都の新規感染者は10月1日に約1万5千人になり、ピークとなる12月1日の2万8636人まで増え続ける。一方、滞留人口を4割減らすと10月1日には1500人以下まで減少。その後は同程度の水準で推移していく。10月1日時点で約10倍の差が出ることになる。倉橋教授は言う。
「過去のデータを見ても、昼間の滞留人口は感染者数の増減に大きな影響を与えません。会社内では、マスクや消毒などの感染対策が徹底されているからだと思われます。一方、19時時点の滞留人口を少し減らすだけで、感染者数の増減に大きな変化があることがわかりました」
このように、地域や時間を限定したロックダウンは世界で実施されている。倉橋教授は続ける。
「感染抑制に成功している台湾でも、感染が確認された地域や業種にピンポイントで厳格な警戒措置を実施して成果をあげています。日本でも副作用の少ない形でのロックダウンは可能でしょう」