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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、デルタ株がまん延するアジアの都市について。
【実際の写真】先頭はずっと先…タイのワクチン接種会場はこんな感じ
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デルタ株のまん延は、アジアの国々のホームレスを急増させている。ぎりぎりのところで頑張ってきた境界層が路上生活者になだれ込みつつある。
アジアでは、新型コロナウイルスの感染が広まって以来、厳しいロックダウンを国民に強いてきた国が多い。収入が途絶え、職を失った人々をデルタ株のロックダウンが直撃している構図だ。
「RUTHLESS(無慈悲)」
マニラに暮らすIさん(63)は、ホームレスが壁に書いた落書きを複雑な思いで眺めたという。その横には毛布を被ったホームレスがいた。
「誰に向かって無慈悲って書いたんでしょうね。ウイルス? それとも政府?」
「世界で最も厳しく長い」といわれるフィリピンの防疫措置。夜間の外出禁止、食料品店以外の営業禁止。学校の対面授業も1年半近く行われていない。タクシーの運転手は、収入が70%から80%に減ったと嘆く。民間の調査機関の調べでは、失業率は25%を超えている。
富裕層や有名俳優が行う食料配布がときどき行われる。しかし人々が殺到し、ひとりが死亡するという事故が起きた。
アンコールワットを抱えるカンボジア一の観光都市、シェムリアップでもホームレスが増えている。シェムリアップ川沿いに多い。空き缶やゴミ拾いで糊口をしのぐ。ある在住日本人はこういう。
「この街に住むカンボジア人の多くは観光にかかわっています。彼らは仕事がずっとゼロ。もう1年以上も。ホームレスには子どもも多い。先日、以前、ホテルを経営していた欧米人がホームレスになって路上にいたという話を聞きました。噂ならいいんですが」
バンコクではバスの無賃乗車が増えている。