「フェスに参加する人にとっては、1%の人がルールを破ると、残りの99%の人が本当に困ってしまう。他の人も1%の人が自分たちにもたらす不利益を承知しているので、ゼロにしなくてはいけない気持ちを感じるはずです。SNSで自主的に感染対策を共有する動きもありました。とはいえ、こういう議論になれば、『だったらオンラインで無観客でやれば』という意見も出ますが、オンラインで同じように気持ちが満たされるのかと言えば、満たされない。心の通い合いやテンション、音楽から発信されるメッセージの受け取り方は全然違いますし、それはフェスのファンが一番感じているはずです」
東京都江戸川区に住む会社員男性(26)も、その“リアル”にこだわっている。なぜか。
「生の歌声や演奏は、ライブ配信などのデータには乗ってこない情報が伝わってくる。画面を通して聴いても、ここまで心臓がふるえることはない。ベースの低音やバスドラムの音の振動や、歌い手の気持ちがダイレクトに伝わってきて、心が満たされる。それに、会場で周りのお客さんの幸せそうにしてる顔が、自分も幸せにしてくれるんです。上手く言えないのですが、ライブは魔法のように感じます」
この男性は「フェスに支えられるのは、当日だけではない」と話す。平日は仕事が忙しく、0時を過ぎて帰宅することもある。だが、「開催が近づけば辛い仕事もこなすことができるし、フェスが終わった後も、しばらくはその思い出だけで生きていける」
さらに、男性のフェスへの「愛」は止まらない。
「独り身だからいつでも仕事を辞めてフリーター生活もできますが、そういう生活になったらライブに行く経済的余裕がなくなる。フェスに行くために、ちょっと仕事がきついけど、会社員として頑張れる。休日に何も楽しみがないと、どこかで折れていたと思う」
参加者それぞれが思いをめぐらせる音楽フェス。コロナ禍とて、はたして「不要不急の極み」なのか――。前出の鹿野氏は主催者としての立場として、こう語る。
「フェスを開催してお客さんを集めることは、感染防止の上で最良の選択ではないとは思っています。最も有効な感染対策は、『何もしないこと』でしょうし、僕もそう思います。しかし、人間はコロナが過ぎ去るまでずっと家で静かにしながら生きていける生物なのでしょうか。音楽は人間に対して、ひとつの希望を伝えてきたと思います。もちろん、フェスが不要不急だと思う人もいますが、必要とする人もいる。生きていくために必要としている人たちに音楽を届けることは、独りよがりなことではないと思います」
(AERAdot.編集部・飯塚大和