「フェスがなければ仕事ができなくなってしまう人も多い。復活する日まで、ウーバーイーツの宅配の仕事などで持ちこたえようとするスタッフもいますが、長期に及ぶことで音楽業界での仕事に見切りをつけて、あきらめていく人は相当な数だと聞いています。このまま人材が確保できなくなっていけば、音楽業界をはじめとするエンタテインメントが培ってきた技術力が、元に戻ってしまうのではと危惧しています」

 2年ぶりの開催となった今回のフジロックでは、来場者数の制限や自粛の影響で、3日間の来場者数はおよそ3万5千人。前回(2019年)の4分の1ほどに減った。参加者には事前に抗原検査キットを送付し、無料での入場前検査を任意で呼び掛けていたほか、「全面禁酒」「歓声禁止」などの制約のもと、様々な感染対策が講じられた中での開催だった。

 鹿野氏は、自身も今年5月に音楽フェス「ビバラロック」を主催したが、「フェスは準備の段階から緊張感を伴うものだった」と話す。

「下手な感染対策をして開催すれば、主催者側も打撃を受けることになる。単なる利益を目的として、適当なルールを作っているフェスは本当に一つもないはずです。ビバラロックも開催後、2週間経って感染状況の結果がわかるまでは緊張が続きました」

 こうした主催者側の思いは、来場者たちに届いているのだろうか。

 東京都在住の会社員男性(49)は、フジロックの第1回(1997年)から毎年欠かさず参加してきた、筋金入りの“フジロッカー”だ。今大会の参加にあたっては、事前、現地、帰宅後の3回抗原検査をした上で、自主的にPCR検査も受けた。

「主催者たちは、開催に向けていろんな努力をしてきた。彼らがやると決めたからには『参加する』ことで支えたいし、コロナ対策も万全にしたい。対策をおろそかにしてフェスをつぶしたくないからね」

 “皆勤賞”のこの男性からみても、今年の会場の様子は異例だった。驚くほど人が少なく、フジロックの風物詩だった飲食スペースやトイレでの行列も「今年は全然並ばなかった」。ステージ前も客同士が押し合うことなく、間隔が保たれていたという。

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「密対策で雨宿りできなかった」