でも国は「強制」はしていない。全体と個人の問題は別だからだ。接種には前述の通りリスクもあるし、新しいワクチンなので不明な点もある。長期的リスクを懸念する専門家もいる。なので自分の年齢、健康状態、生活スタイル、家族構成、人生観など、各々が置かれた事情に応じて、自分のことも周囲のことも考え悩みつつ答えを出すしかないのだろう。それ以上でも以下でもないと思うんだが、そんな風に「悩んでいる」ことすら言えない空気があるのだった。特に第5波の猛威の中では、ウッカリ論争を始めようものなら双方の人格攻撃に発展しかねないことを実際、複数の爆撃を食らい思わず応戦して焦土となり思い知る。

 ウイルスに殺られまいとして互いの心を傷つけ合う私たち、本当にどうかしてる。何が正しいかは結局誰にもわからない。人によって正しさも違う。我らそのことを1年半学んできたんじゃなかったのか。そう自分に言い聞かせて心を鎮めております。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2021年9月6日号

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