「鈍ちゃん」「タコボウズ」「ダメダメ君」

 投手には繊細な感覚が不可欠なはずなのに、大谷はアップ中に靴が脱げたり、グラウンド移動中に左足を台車に打ちつけたり、軽率な失敗談も多い。「あいつは鈍感なところがあるからね」と呆れた栗山監督は、以来、「鈍ちゃん」と呼ぶようになった。

 その後、15年8月26日の西武戦では「今日は“タコボウズ”に任せるしかないから」と新たなニックネームが登場。

 さらに17年8月26日の楽天戦では、大谷が則本昂大の153キロ速球を打ち返し、3試合連続タイムリーを記録したにもかかわらず、5打数1安打に終わったことが不満で、「ダメダメ君だろ」と文字どおりダメ出しした。

「ふがいない」「技術不足」「投球に関しては1回も褒めたことはないですけど」

 16年4月10日の楽天戦、シーズン3度目の登板ながら未勝利の大谷は、8回を6安打1失点に抑えたが、不運にも0対1で敗戦投手に。けっして悪い内容ではなかったが、栗山監督は「球数は理想的だったけど、勝つことが仕事なんで。翔平からしたら、先に点を与えてはいけないと思います。ふがいない」と情け容赦なく切り捨てた。

 5月8日の西武戦では、大谷は一転乱調に陥り、6回を10安打4失点と、“らしくない”内容で3敗目を喫する。

 栗山監督は当然のように「技術不足。あれだけ打ちやすいところに投げて。以上」と突き放したが、その一方で、「オレは世界一を目指してほしいんだ。あれで変化球の精度も高くなったら、その可能性はあるだろ。スピードだって、まだまだ出るんじゃないか」と未知なる可能性にも言及し、奮起を促した。

 その言葉を胸に刻んだのか、大谷は5月下旬から8連勝と確変。優勝マジック1で迎えた9月28日の西武戦でも、1安打完封の1対0で胴上げ投手に。

 この球史に残る快投には、さすがの栗山監督も「投球に関しては1回も褒めたことはないですけど、最高でした」と初めて褒め言葉を口にした。

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メジャー移籍後も褒めない栗山監督