官房長官時代には自身の肝いり政策である「ふるさと納税制度」に反対した総務官僚の平嶋彰英氏が省外に左遷された。こうした露骨な人事が官僚の萎縮を招いたとの指摘もある。政治ジャーナリストの野上忠興氏は言う。

「官房長官のころは、『俺はナンバー2でいい』と自認していたが、棚ボタで最高権力者になった。国家観もなく、自分の力不足をわかっているから、結局、権力を頼りに恫喝的な政治手法をとったが、コロナ禍という危機対応には通じなかった。周辺によれば、総裁選で推薦人が20人集まらない可能性すらあったとか。そんな現職総理にあるまじき醜態が表面化する前に、自ら身を引いたと聞いています」

 菅首相は、自民党では事実上初めてとなる自派閥を持たない首相だ。そのことが政権運営に影響を与えた。前出の田原氏は言う。
「派閥を持っていないことで、体を張って菅首相を守ろうと考える側近政治家がいなかった。しゃべりも下手で、説明力、説得力、責任能力の三つの『S』が欠けていると指摘され、国民からは菅政権はいつも逃げているようにしか見えなかった」

 ただし、前政権の「負の遺産」に苦しめられた面もあるという。

「五輪に関しては、菅首相は安倍前首相が決めた『1年延期』を引き継いだので、中止とは絶対に言えなかった」(田原氏)

 政権を放り出した安倍氏から、コロナ禍での五輪開催という損な役回りを押し付けられた「使い捨て宰相」──そんな見方もできるかもしれない。

 では、このまま菅首相が「終わった人」になるかというと、そうでもない。自民党関係者は言う。

「結果的には、新しい総理・総裁で総選挙に臨むことになった。投開票日も、ワクチン接種が広がって感染者数が落ち着くと予想される11月以降に延ばすこともできる。もし総選挙に勝利すれば、菅首相も功労者の一人ですよ。自民党は腐っても再生能力があるということです」

 自民党の長老政治家たちの思惑どおりにシナリオは進むのか。すべては次の選挙で下される国民の審判にかかっている。

(本誌・西岡千史、亀井洋志、秦正理)

※「週刊朝日」9月17日号より

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