菅首相の判断能力を疑う声は、次第に公然と上がるようになった。甘利明税調会長は1日、自身のホームページに「総裁選の前に人事を行うという前例のない事態には皆理解に苦しんでいます」と投稿。党重鎮が首相を批判する異常事態だった。
総裁選不出馬を表明した3日の党臨時役員会は、本来であれば菅首相に人事案を一任するために開催されるものだったが、すでにその前に万策尽きていた。ジャーナリストの田原総一朗氏は言う。
「菅首相は、小泉氏を幹事長にしたいと思って4日間にわたり説得したが、小泉氏が最後まで固辞した。たとえ幹事長になっても、次の総選挙で負けたら辞任せざるを得ない。他の人事もすべて断られ、菅首相は辞任せざるを得なくなった」
なぜ、菅首相はこれほど無様な形での退陣表明になったのか。菅首相の官房長官時代に文部科学省の事務次官を務めた前川喜平氏は言う。
「『策士、策におぼれる』で、人事で権力を拡大してきた菅首相が、人事で行き詰まった。また、コロナ対策ではPCR検査を拡充せず、国民に十分な補償をして経済活動を止めて医療体制を整えることもしませんでした。これで国民に見放されてしまった。まさに『自業自得』です」
政界では「首相は得意分野で失敗する」と言われる。その言葉どおり、菅首相の1年の在任期間は人事の失敗に始まり、人事の失敗に終わった。
昨年9月に発足した菅内閣は、就任直後に65%(朝日新聞社の世論調査、以下同じ)という高支持率でスタートした。それが同年10月、日本学術会議から推薦された会員候補者6人の任命を拒否していたことが発覚。菅首相肝いりのコロナ経済対策「Go To トラベル」実施の間に新型コロナウイルスの感染が拡大したことも批判され、12月には支持率が39%まで急落した。
それでも任命拒否の撤回はせず、一度決めた人事にこだわり続けた。菅首相がこうも人事に執着することについて、かつて省庁の幹部を務めた官僚はこう話す。
「初めて菅さんと食事に行ったとき、いきなり『俺は、役人を動かすのは人事だと思っているから』と言われた。実際、菅さんは総務相時代に放送政策課長を左遷しました。今考えると、私たち役人を人事の恐怖で抑えつけるための“かまし”だったんでしょう」