1月以降、ウィシュマさんは食欲不振や吐き気を訴えるようになった。施設内には診療室があり、週に2回、非常勤の内科医師が2時間程度、診察に当たっていた。2月15日には尿検査が実施される。結果は「ケトン体3+」。ケトン体は、飢餓状態に陥った際に体内で生成され、尿中に排出される物質だ。だがその後の対応には問題があった、と指宿弁護士は指摘する。
「ウィシュマさんが極めて危険な状態にあったというのは、医師であれば誰しも気づけたはず。3月4日には外部病院の精神科を受診していますが、そもそも飢餓状態の人に精神科への受診を指示するのがおかしい」
弱る彼女に、職員の対応が追い打ちをかけた。報告書によると、2月23日には施設内で嘔吐し、「病院点滴お願い」と訴えたが、職員は「上司の了解が得られていない」と応じなかった。3月1日、カフェオレを飲もうとして鼻から噴き出してしまったウィシュマさんに、職員は「鼻から牛乳や」と言った。
「人の命を救う気があったとは到底思えない発言です。職員たちは、はなからウィシュマさんが死んでもいいと思っていたのではないでしょうか」
4日に精神科で処方された薬を飲んだウィシュマさんは翌日から脱力状態が続き、6日午後、救急搬送先の病院で死亡が確認される。遺族はウィシュマさんが亡くなってから事実を知った。
2人の妹、ワヨミさんとポールニマさんは入管庁に監視カメラのビデオ映像開示を求めたが、見ることを許されたのは遺族のみで、しかも映像の一部だけ。収容期間中の関連文書の開示も求めたが、開示された文書は大半が黒塗りだった。
「入管の対応は常にそう。すべてをブラックボックスに入れて、自分たちにとって都合の悪い情報は外に出そうとしない。第三者が調査して検証できるようなことを不可能にしているのです」
指宿弁護士は、報告書の記述には事実と異なる箇所が複数あった、とも指摘する。
「例えばウィシュマさんは2月26日にベッドから落ち、インターホンを23回押して職員を呼び出しています。報告書には『体を持ち上げてベッド上に移動させようとしたが、持ち上げることができなかった』と書かれていますが、ビデオを見た遺族によれば、実際には持ち上げようともしていなかったそうです」