■体質変わらねば同じこと起きる

 遺族らはビデオの全面開示をなお求めており、インターネット上では9月4日時点で約7万5千筆の署名が集まっている。これに対して入管庁の警備課担当者は「要請は真摯に受け止めている」としながらも、「本件に限らず、監視収容施設内のビデオ映像に関しては情報公開法に従い、不開示情報と位置づけられている。法律が変わらない限り取り扱いを変えることはない」と回答した。

 入管職員による収容者への暴言や暴行は、今回が初めてではない。14年には茨城県牛久市の東日本入国管理センターで、収容者のカメルーン人男性が死亡。今年に入ってからも、同じ牛久のセンターで収容男性が警備員から暴行を受け、全治2週間のけがを負った。
「日本では外国人を『敵』とみなし、長期収容してでも徹底管理する入管政策が、戦後一貫して取られてきました。入管からすれば、被収容者の命を守ることよりも、祖国に強制送還させるほうが重要なのです。帰国の意思を翻したウィシュマさんに暴言や虐待が行われたのもそのためです」

 今の入管体制をどう変える必要があるのか。

「現状では期間の上限に定めがなく、収容期間が4、5年と長期にわたるケースも多い。最大6カ月などの期限を設けるべきでしょう。また収容に際して裁判所の許可がいらず、入管の権限で自由に行えるのも問題です。そして何より変わるべきは、入管の体質です。人の命を失わせながら誰も責任は取らず、お手盛りの調査で情報隠蔽を図ろうとする。そうした風土自体を変えなければ、たとえどんなに制度が充実しても、同じことが繰り返されると思っています」

(本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2021年9月17日号