TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は映画『ドライブ・マイ・カー』を巡る小説家・小川哲さんと監督・濱口竜介さんの対話について。
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村上春樹さんの短編が原作の映画『ドライブ・マイ・カー』(公開中)は、僕の心にいつまでも消えることのない余韻をもたらした。
俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島秀俊)は、ある日妻の不貞を目撃してしまう。だが、妻は秘密を残したままこの世を去り、家福は喪失感を抱えたまま、演劇祭の演出のために広島に向かう。寡黙なドライバー渡利みさき(三浦透子)と車中で時を過ごしながら、それまで目を背けていたあることに気づく……。
179分の映画だが、表現とは抑制されていなければならないことを教えてくれた。押し殺した中に滲み出てくる感情こそ尊いということを。
抑制と長尺という、一見二律背反の創作を成功させ、カンヌ国際映画祭で日本作品初の脚本賞を受賞した濱口竜介監督が、『村上RADIO』直前番組『村上RADIO プレスペシャル』に出演した。進行役の小説家、小川哲と濱口竜介。気鋭の二人の会話は息をのむ面白さで、一言たりとも聞き逃せなかった。
「村上さんの作品って、小説として楽しむことの魅力を研ぎ澄ませているというか、映画化は一筋縄では行かない気がしていたんですけど」と小川が投げかけると、「(村上さんの小説は)情景描写以上に、内的なリアリティというか、登場人物の中で起きている気持ちの流れの描写力が凄まじいという印象があって、それが世界の人の心を捉えているのだと思うんです。でもそれは映画が一番できないところでもある。基本的な戦略として、文章の再現は極力避ける。ここにこう書いているから、こうしますということから離れないと映画にはできない。自分が何度も読んで内的なリアリティを写しとって書く。それが村上さんの読者に受け入れてもらえるかはこれから、ということです」と監督は応えた。