179分という長さについて小川は、「全然退屈するところがなかった。ストーリーは複雑ではないのに驚きがある。観ている間、ずっと面白い」

「ところで、村上さんの小説家としてのすごさってなんですか?」と監督が大きなテーマを切り出した。

「僕は異端なんで……、明確に言語化できて、数値化できることで一番思っているのは、句点と読点。特に読点の使い方が日本一上手いですね」

「あー、すげー。小説家でないと言えないです」と感嘆する監督に、「すべての文章に正確に読点を打っている。それが派生して、読み返さずにスラスラ読める。主語がどうの、動詞がどうでとか、文章の意味自体を理解するために読み返す必要がない文章ですべての小説が構成されていて、奥深く立体的な世界になっているんです。それが客観的に見たすごさですね」

「異端」「数値化」という言葉は、小川が東大の理系から教養学部へ、いわゆる「文転」したことと無縁ではないのだろう。感情論に流されない論理的で透徹したトークで、出演番組(『ねじれちまった悲しみに』)が昨年の放送文化基金賞ラジオ部門最優秀賞を受賞した。

 濱口監督とは駒場キャンパスの同窓生、スタジオで出会った映画監督と小説家の村上春樹論は白熱し、収録予定時間を過ぎても終わらなかった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年9月17日号

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