ペットはもはや大事な家族。読者とペットの愛おしい日常のひとコマをお届けします。今回の主役は、猫のチコちゃんです。
【写真】こんな姿見たことない! 枯れ葉をやさしく抱えて立ち上がる猫
* * *
その猫は、最初は子連れで小さな尼寺に現れた。7、8年前のことだ。
数カ月後、母猫だけがフラリと来て、寺の井戸端にすみついた。老尼が杖をついて散歩すると歩調を合わせて歩き、縁側に並んで座り、草むしりを墓石の上から見守った。
ごく自然に寄り添い合い、いつの間にか猫はチコと呼ばれ、猫もそれになじんだ。
90歳をとうに過ぎた老尼は老人介護施設で週に3泊4日お世話になり、チコは留守を守って老尼の帰りを待った。
寺には数人の支援者がいる。私は十数キロ離れた隣町から通っているが、近所のMさんは、庭の手入れなどをしてくださっている。そのMさんが、老尼が留守中、朝夕のチコの食事の世話を買って出てくれた。
大雪だった一昨年の冬、老尼は長い間施設から帰れなかった。Mさんは吹雪の中、雪をかき分け毎日チコのところへ通った。チコはMさんの膝の上でふみふみして甘えるようになっていた。
冬が過ぎても、コロナ禍で老尼は帰宅ができなかった。Mさんはチコを自宅に連れていこうと誘ったが、チコは寺の敷地の境界から一歩も出ようとしない。