「日本人は車椅子に乗った子どもたちのことをあまり知らないの。だから、車椅子はシニアのものだと思っている人がたくさんいるのよ。日本人はシャイだから、わからないことにはお互いにラインを引いてしまうのかもしれないね。

 日本では子どもの頃からレギュラークラス(通常学級)とスペシャルクラス(特別支援学校)が分かれていて、交流が少ない。だから余計に車椅子に慣れない。悲しいけどね。本当は、私たちはコウのために、何でもトライできて理解があるアメリカに住みたかった。カリフォルニアはNo1! でも、住むのはすごく難しいね」

■誰もがそう考える社会に

 私の語学力の問題もあり、この程度の表現しかできませんでしたが(笑)、聴き終わると、ふたりはすごく悲しそうな顔で、こう言いました。

「どうして? みんな同じ子どもじゃない」

 私も誰もがそう考える社会になってほしいと思います。

 でも例えば、日本人の大学生が我が家にホームステイに来たとしたら、子どもたちに会って最初にすることは、長女を抱き上げてキスではないと思うのです。

 いま、医療や福祉や教育現場など幅広い分野で、WHOが採択したICF(国際生活分類)を用いることが多くなりました。ICFとは、活動や参加をするために、心身機能や身体構造を考慮しながら環境を整えていくという考え方です。日本でよく聞く「ハンディキャップ」という言葉は「障害は社会的不利」と表現されるため、欧米では現在、この単語はあまり使われていないようです。どうすればその人らしく活動に参加できるのかを考えることが、最も重要なのですね。

■車椅子のバービー人形

 皆さんは、車椅子のバービー人形があることを知っていますか?

 写真のバービーは、友人が車椅子ユーザーの複数の女の子のために、アメリカで買ってきてくれたものです。当時はまだ日本での発売前であり、初めて車椅子に乗る人形を見たママたちからは、子どもよりも大きな歓声が上がりました。

 長い間、おもちゃの世界では障害者はいないことになっていたそうです。でも、この時から、自転車に乗るバービーや、着せ替えができるバービーと同じように、バリエーションのひとつとして車椅子バービーが店頭に並びました。箱に「FASHIONISTAS」(おしゃれに敏感)と書いてあるのも良いですね。

 車椅子は決して特別なものではなく、障害のある人が生活しやすくなるためのツール。ただそれだけだと思うのです。

〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ

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