このような状態を招いた一因は、国による過度な規制緩和にある。安倍晋三政権が13年に保育園への株式会社の参入を積極化させて以降、営利企業が作った認可保育園の数は13年の555カ所から19年は2516カ所まで急増。比例するように、認可保育園の保育事故は15年の344件から19年には881件に増えた。

 14年には国家戦略特区ワーキンググループで保育大手のポピンズが「提案に関するヒアリング」として「特区における保育士・保育所制度に関する改革提案書」を提出。認可保育園の配置基準は、7割を保育士で満たせばいいという規制緩和を訴えた。実現されれば無資格者も配置基準の人員にカウントできるようになり、それだけ人件費を抑えられることになる。

 前述のように、認可保育園では各組・グループに常勤保育士を1人以上配置しなければならなかった。ところが保育士不足が深刻化したことで、21年4月からは「常勤保育士1人」を「非常勤の短時間勤務の保育士2人」で代替できる規制緩和が認められた。この変更について、ある自治体の監査担当者は事故の増加を懸念する。

「昼食時、人手が足りないからと日頃子どもをみていない非常勤の保育士がヘルプで入り、アレルギーのある子への誤配膳などのミスから事故につながっている印象が強い。今回の変更でまた非常勤職員の割合が増え、さらに事故が増えかねません」

 筆者が取材した保育園の中にも、救急要請や医療機関への受診についてのマニュアルがアルバイトの保育士には周知徹底されていないというケースが複数あり、安全面への不安はぬぐえない。

 保育事故に詳しい寺町東子弁護士はこう語る。

「短時間勤務の非正規雇用が多いと、保育者同士の引き継ぎがうまくいかなくなり、事故につながるケースも考えられます。保育の質と子どもの安全を守るには、常勤保育士の数を増やし、余裕を持って現場が回るように配置基準を引き上げる必要があります」

 規制緩和で保育園という器が増えても、安心して預けられないのでは本末転倒だ。保育の質を考えるうえで、人員体制にも目を向けなければならない。(小林美希)

週刊朝日  2021年9月24日号

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