02年に、それまで一定割合に制限されていた短時間勤務の規制が撤廃されたことで、非正規雇用も増えた。派遣の保育士が多いA保育園では正社員に大きな負担が生じ、系列園では保育士が一斉退職した。これで、子どもの安全を守り、保育の質を維持できるだろうか。

 A保育園の運営会社と同様、「儲け主義」で人員配置をギリギリにしている別の会社が展開する埼玉県内の認可保育園Bでは、数年前に深刻な保育事故が起こったという。

あわや窒息死も情報共有されず

 関係者の証言を元に、保育園のある自治体に報告書の情報開示請求を行うと、1歳の園児がお昼寝中に窒息死していたことがわかった。同社の内部資料によれば、保育士の離職率は60%を超える年もあり、新卒採用でも3カ月で辞めるケースが多いという。人員が不安定な状況が常態化してしまっていたようだ。

 都内にあるB保育園の系列の保育園で働いていた保育補助者は、「一歩間違えば目の前で死亡事故が起きていた」と振り返る。園児が昼食のパンをのどに詰まらせて顔面蒼白となり、救急車が到着するまでの間に保育士が掃除機でパンを吸い出して、ことなきを得たという。この保育補助者は、その後の園の対応に疑問を覚え、退職した。

「救急車を呼ぶ事態だったのに、系列の他園にも情報は共有されず、事故防止や事故対応の研修もありませんでした」

 この会社では各園の出席園児数や保育士数を入念にチェックし、配置基準と比べ“余っている”保育士を他園に応援に出していたため、現場は常に疲弊していたという。

 保育士不足はどこまで深刻なのか。東京都は、監査で法令違反があると文書指摘があった項目について直近3年分をホームページで公表している。都内には3千超の認可保育園がある。筆者が17~19年度の違反項目を集計すると、保育士配置に関する違反があった保育園は計153カ所あった。

 監査項目のうち「保育士が適正に配置されていない」「職員配置が適正に行われていない」「施設長が専任となっていない」「常勤の保育士を各組や各グループに1人(場合により2人)以上配置していない」といった指摘があった園について、東京都に違反内容の詳細の情報開示請求を行うと、深刻な保育士不足の状況が見えてきた。

週刊朝日2021年9月24日号より)
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