A保育園では3~5歳児クラスの園児数が各17人前後なのに対し、担任が各1人の体制。園児の年齢ごとに定められた最低配置基準に書類上は達しているが、実際には様々な問題が生じている。日々の休憩、有給休暇、朝晩のシフトや土曜保育の分を考えると、本来は園全体で基準より多く保育士を確保する必要があるためだ。
散歩に出るにも一苦労。園庭がないため公園に移動する必要があるが、保育士が2人いないと危険だ。3歳児以上のクラスの担任は1人。0~2歳児クラスの保育士を駆り出し、0~2歳児クラスで抜けた分は園長や主任保育士が穴埋めする。
A保育園の保育士は新卒採用が中心で皆、若い。中堅、ベテランがいないため、経験2年目でリーダー役を任される。1歳児クラスには15人の園児に対し担任の保育士が3人いるが、常時、全員がそろうわけではない。多くの場合、保育士2人で子どもの昼食を介助しながら、食べ終わった子のトイレ誘導や着替えを行う。まだ一人でお尻を拭けない園児に、保育士が「早くトイレ行って!」「早く着替えて!」と怒鳴るなど日常茶飯事。園長の指導にも限界がある。
「子どもが好きで保育士になるのに、人手不足から優しく接することができなくなっています。せめてフルタイムの正社員で配置基準を満たしてもらえれば、保育士も余裕を取り戻せるのに」(園長)
そもそも国が決めた最低配置基準は戦後間もなく決められたもので、見直しが求められている。実際、自治体や各事業者の判断もあり、私立の認可保育園では常勤と非常勤を合わせ全国平均で1施設(定員92人)当たり平均3.8人多く保育士を配置しているのが現状だ(内閣府、2017年度「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」報告書)。
だが、認可保育園に公費から支出される基本的な人件費は最低配置基準の人数分のため、基準ギリギリの人数しか雇わずに賃金を抑える例が後を絶たない。筆者が取材したある大手保育園の元幹部は「特別な補助金が出ない限りは配置基準以上に雇わない」と断言しており、その園の賃金も決して高くはない。