病気は脳内を観念と言葉と論理と理屈でギッシリ埋め込んでいるから病気になるのです。如何なる病気でも頭の中を空っぽにすれば、すぐ治ります。病気の原因の99.9パーセントはストレスです。芸術もストレスが必要不可欠ですが、そこはいい頃を見計らって入院して、病室をアトリエ化することで、ストレスは解消します。創造とストレスは往復運動です。往復書簡とは違いますよ。報復運動とも違います。

 セトウチさん、僕の入院趣味がやっとおわかりになったかと思います。入院があって芸術が存在し、芸術があって入院が存在するのです。この芸術と入院の両輪が僕自身を存在させているのです。そろそろ「入院の秋」到来ですが、今はコロナで病室が空いていないので残念ながら入院はできません。コロナに感染しても入院はできません。恐しい世の中になりました。自宅を病室に一変させて、妻に白衣を着せて、脈を取らせるしかないです。病院食はいやなので、ステーキとカレーとぜんざいの家庭食に変更します。折角の秋も自宅療養では絵も描けません。

 今年は残念ながら「入院の秋」は延期することになりました。ゴホン、ゴホン、喘息は止みません。ゴホン。セトウチさんゴ本(ホン)大好きで読書三昧とか、そんな面白いゴ本ってありますか。

■瀬戸内寂聴「私も入院が最近とても好きになりました」

 ヨコオさん

 九月のはじめは台風が来ると思っていたのに、今年はなぜか、毎日おだやかな朝を迎えています。

 子供の頃、長い夏休みが終わって、学校が始まると、休み中に力を尽くした宿題を山のように抱えて、久しぶりの学校に行った心のたかなりを思い出します。私の故郷の徳島では、この時、必ずと言っていいほど、雨が降ってきたものです。

 小学校に上がったのは、八歳だったので、六年通った小学校は、人生最初の社交場でもあり、数え百歳まで生きた私の思い出の中でも格別のものがあります。

 小学校は眉山の山懐にある新町小学校というものでした。家がその近くに引っ越したので、近所の子供ともまだ馴染んでいなくて、五十人のクラスでも知った子は一人もいなく、わびしいものでした。その上、私の教室の席は、一番後ろで、隣には大きな、髪の長いのをおさげに編んだ妙に大人びた子が、いつもニヤニヤしながら座っていました。

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう
次のページ