『鬼滅の刃』の公式キャッチコピーに「これは、日本一慈しい(やさしい)鬼退治」という言葉がある。このフレーズはまちがいなく、物語の主人公・竈門炭治郎の「優しい人柄」に由来している。炭治郎は正義感が強く、ときおり激しい怒りも見せるが、「すべての鬼を」単純に憎むこともできず、鬼との戦いのたびに胸を痛めていた。さらに炭治郎は時々主人公らしくない「弱音」も口にする。こうした迷いこそが「竈門炭治郎らしさ」であり、『鬼滅の刃』では彼を主人公にする“必然性”があった。その意味について考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。
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■鬼との戦闘に苦悩する主人公
鬼に家族を殺され、生き残った妹を「鬼化の呪縛」から解くために、竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は鬼狩りへの道を志した。
しかし、鬼にトドメを刺せぬ炭治郎は「判断が遅い」と鬼殺隊の元水柱・鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)から頬をたたかれ、のちに兄弟子になる水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)からも「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」と初対面で厳しく叱責されている。
心優しい炭治郎は、最初、戦う意味をつかみきれずにいた。妹を救いたい気持ちと、鬼という「生き物」を殺すことの必要性が、頭では理解できても、心でうまくつながらなかった。われわれ読者は、この“優しすぎる主人公”の苦悩を数々のエピソードを通じて見届けることになる。
物語冒頭で炭治郎は立て続けに鬼と遭遇し、鬼が人間を喰う姿も目の当たりにしてきた。それでも、炭治郎は鬼に苦痛を与えることをためらった。人喰い鬼は殺さなくてはならないと、自分で自分に言い聞かせる場面も見られる。
<止めを刺しておかないと また人を襲う だから俺がやるんだ>(竈門炭治郎/1巻・第2話「見知らぬ誰か」)
<苦しむだろうな 一撃で絶命させられるようなものはないのか…>(竈門炭治郎/1巻・第3話「必ず戻る夜明けまでには」)