「(苦行で痩せ衰えたお釈迦さんは)村長の乙女から牛乳粥の供養を受け、そして(これまで行っていた)断息のかわりに心をこめた呼吸をしたのであった。これが有名なアナパーナ・サチなる呼吸であった」

 牛乳粥とこの呼吸でお釈迦さんは体を回復させ悟りにいたるのです。このアナパーナ・サチは呼気を重んじる呼吸法だったと村木先生は解説しています。釈尊の呼吸法について書かれた経典に「出る息は長く、入る息は短く」という一節があるのです。

 この「呼主吸従」は、今日では呼吸法の基本になっています。しっかり吐くことにより呼吸が深くなるのです。村木先生は3回吐いて、1回吸うという三呼一吸法も提唱されています。

 呼吸法により意識的に呼吸することは、自分がまさに生きていることを実感することでもあります。フィリップ・マーロウ風にいうと「呼吸がなければ生きていけない。呼吸法がなければ生きていく資格がない」といったところなのです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年10月1日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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