判決の後、妻子の遺影とともに会見する松永拓也さん(35、右)と、亡くなった真菜さんの父・上原義教さん(64) (c)朝日新聞社
判決の後、妻子の遺影とともに会見する松永拓也さん(35、右)と、亡くなった真菜さんの父・上原義教さん(64) (c)朝日新聞社
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 禁錮5年の実刑判決に、母子を失った遺族は「短すぎる」と涙を流した。飯塚幸三被告はなぜこの量刑になったのか。90歳という高齢でも収監されるのか。 AERA 2021年9月27日号の記事を紹介する。

【写真】松永さんが家族3人で暮らしていた部屋

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 重いのか、軽いのか。

「禁錮5年は若干重めの判決だったと思います」

 交通事故裁判などの刑事事件に詳しい神尾尊礼(たかひろ)弁護士はそう話す。

 2019年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し、松永真菜(まな)さん(当時31)と娘の莉子(りこ)ちゃん(同3)の2人が死亡した。今年9月2日、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚幸三被告(90)に対し、東京地裁が下したのは禁錮5年(求刑・禁錮7年)の実刑判決だった。

 神尾弁護士によれば、過失犯の場合、量刑は・犯行の態様(実際にした行動)の悪質性・結果の重大性──の二つで大半が決まり、そこに「先例」が加味されるという。

「飯塚被告が問われた過失運転致死傷罪は上限が7年です。7年が言い渡されることはほぼなく、複数死亡でけが人も出た事件の判決は4年から6年手前に集中しています」(神尾弁護士)

 今回の事故で、被告はアクセルを10秒近く踏み続け、2人を死亡させただけでなく9人の重軽傷者も出した。先例からも、「5年」は量刑の範囲を超えるものではない。執行猶予がつかなかったのは、犯行態様と結果の重大性から「実刑事案」といえるからだという。

■大枠は犯行態様と結果

 だが判決の後、SNS上では「判決は軽すぎる」という声が飛び交った。真菜さんの父・上原義教さん(64)も会見で涙を浮かべ心情を吐露した。

「5年は短すぎます」

 神尾弁護士は、遺族感情として「5年は軽い」と感じるのは自然のことだが、量刑を決める際には遺族感情はそこまで重視されないと指摘する。

「量刑の大枠は犯行態様と結果で決まり、遺族感情はこれを修正するものです。イメージとして、量刑を決める際のポイントが、犯行態様と結果の重大性がそれぞれ10点のウェートを占めるとすると、遺族感情は数点。遺族感情は量刑に大きくは影響しません」

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