なぜ過失運転致死傷罪よりも重い危険運転致死傷罪で起訴されなかったのか。危険運転致死傷罪だと、最高刑は懲役20年だ。神尾弁護士は言う。
「危険運転致死傷罪はわざとやったという故意犯に適用されます。飯塚被告はわざとアクセルを踏み続けたりしたわけではなく、危険運転致死傷罪の適用の余地はないと考えます」
そのため、刑務所に収監された場合に労役を科す「懲役」はふさわしくなく、労役を科さない「禁錮」としたのも妥当だという。
■「刑の執行停止」の規定
飯塚被告は16日、控訴を断念した。刑が確定したことで、被告は刑務所に収監されることになる。
だが注目されるのが、高齢の被告の処遇だ。被告は収監されないのではともいわれている。刑事訴訟法には「刑の執行停止」という規定があり、「年齢が70歳以上」「病気など著しく健康を害する時」などの場合は刑の執行停止規定がある。被告は90歳という年齢に加え、公判には車いすで出廷して被告人質問で「パーキンソン症候群の疑いがある」と話した。執行停止はあるのか。
神尾弁護士は「執行停止は例外中の例外」としてこう述べる。
「刑務所には医療刑務所があるので、医療的ケアが必要な場合は医療刑務所に分類されることになります。有罪になっても刑務所に収容されないのは、非常に例外的なこと。飯塚被告は執行停止にはならないと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年9月27日号