マンホールに膝をつき、耳をすませば「誰かが下水路を走っている。北西方面に逃走中」までわかってしまう。
問題は真木よう子の声質だ。滑舌も甘めだが、低音でのどにからむ発声が、どうも電波に乗りづらい。聴力で現場を突き止めた瞬間、彼女は叫ぶ。
「イドドソゴガラ、ハッゲンサレダイダイドミボドガハンベイシバスダ!」
おわかりになっただろうか。井戸の底から、発見された遺体の身元が判明したことを。
「ソゴデコドサデダヒガイジャデヅ!」。そこで殺された被害者なのだ。リモコンの字幕ボタンをポチッとすれば大丈夫。
ドラマのクライマックス、ビルの屋上に突然出現する久遠。両手にはめたゴム手袋をパチーンしながら踊り出す。叫ぶ橘。「シドドゥリデヅ!(白塗りです!)」
いや今日は白塗りしてないやん。てか「今あんだって?」と、見てる者すべてを志村けん扮するおばあちゃん化させる恐るべきドラマ。ダンスとボイスでカオスである。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2021年10月1日号