日本の新型コロナウイルス対策は、諸外国より非科学的だとされる。なぜ安倍・菅両政権下で医療政策の迷走が続いたのか。その背景について、上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が語る。AERA 2021年10月4日号から。
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新型コロナウイルスについては世界中が試行錯誤し、ネイチャーやサイエンスなどの科学誌に論文を発表しています。ワクチンにしても、中国の研究者が発表した遺伝子配列をもとにドイツのベンチャー企業がワクチン候補を選定、ファイザー社が治験に入りました。つまり、科学的にグローバルコンセンサスをとれるという意味で、理想的な時代になった。そこに独自解はありません。
ところが、日本はグローバルコンセンサスから外れ、非科学的な医療政策を続けています。偽陽性を引き合いに出してPCR検査を拡充しなかったことも、クラスター対策や濃厚接触者探しも、空気感染が主流とわかったいま、すべて失敗だったといっていい。そもそも、空気感染が主流であることは遅くとも今春には医学界のコンセンサスになっています。現在、世界は冬に向けて備えているのに、日本では季節性の問題を議論せず、人流抑制を続けています。
なぜこんな事態になっているのか。私は、日本の専門家たちは暴走していると考えています。医療は高度に専門的なので、メディアや行政や世論もチェックしづらい面があります。
たとえば、昨年夏、エッセンシャルワーカーに定期的なPCR検査を行う議論があり、自民党の行革本部もその方向で提言しましたが、7月16日、コロナ分科会後に尾身茂会長が記者会見で「(感染リスクの低い無症状者には)行政検査を実施しない」と言ったのです。結果、今年の感染症法改正には具体的に盛り込まれませんでした。PCR検査を事実上独占する保健所や感染研の利権を優先したためではないかと私は考えています。
尾身氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(JCHO)では、補助金を受けながら、コロナ患者を十分に受け入れていなかったことが報じられています。コロナ名目の補助金235億円のうち、40億円しか使っていなかったことも判明しました。けれども、大きな批判は起こっていない。