「退職を強要され自殺に追い込まれた」として労働災害だと訴えた遺族に対し、労働基準監督署は労災を認めなかった。だが、その後の裁判では労基署の判断が取り消され、アルコールの検知器の誤作動も認められた。判決では「会社は、アルコールが検出されること自体が乗務員の落ち度、という姿勢だった」と会社の姿勢を指弾し、「身に覚えのないアルコールがまた検知され、解雇されるという強い心理的負荷を受けた」と、自殺との因果関係を認めた。

 この裁判で原告側の代理人を務めた八王子合同法律事務所の尾林芳匡弁護士は、「安全のために交通機関がアルコールのチェックをするのは重要なことですが、今の技術では誤検知は避けられません。会社側も、誤検知が起こるという前提に立つ必要があります」と指摘する。

 事実、検知器のメーカーらで構成する「アルコール検知器協議会」のホームページでは、飲酒していなくても検知器が反応することはあるか、という質問について、「あります」と明記し、「飲食物や体調により反応する場合がある他、薬の服用、喫煙、洗口剤使用や歯磨き後等でも反応する場合があります。また、ノンアルコールビール等、アルコール成分を含まないと思われがちな食品類にも微量のアルコールを含んでいる場合がありますのでご注意ください」と呼び掛けている。

 尾林弁護士によると、自殺した男性運転手も、味噌汁などの発酵食品が原因ではないかと考えられていたという。

「JR西の早い対応は良かったと思います。自殺した男性のケースでは、会社側が男性の自宅に行って家宅捜索のようなことまでおこない、男性は心理的に圧迫されていました。アルコールが検出されたという事実だけを金科玉条のように扱って、従業員に厳しく対応したり、処分や解雇につなげたりすることはあってはなりません。また、ひとたびアルコール検知の事実が報道されると、交通産業の企業はより大きな問題としてとらえ、重罰を与えないと、という姿勢になりかねません。原因がわからない段階ではできる限り慎重に報道してほしいと思います」

 JR西での誤検知を受け、都内のタクシー運転手は「同じ業界内では誤作動が起こることは当たり前のように知られているけど、経験がない人は酒を飲んだとすぐに疑ってしまうんじゃないか。今回のニュースも、2人から同時にアルコールが検出されるなんて不自然だなと感じたけど、2人とも飲んでたのかと思ってしまう人もいるんでしょう」と話す。

 乗務員の飲酒は大惨事につながりかねないため、日常の安全管理は言うまでもなく大事である。一方で、推測による被害者を生まないために、「アルコール検出」が直ちに飲酒が原因とはならないことも、理解しておく必要がある。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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