2023年1月2ー9日合併号より
2023年1月2ー9日合併号より

 琉球大学の久保田康裕先生は、大学発スタートアップのシンクネイチャーを立ち上げ、生物多様性の見える化アプリなどを開発しています。研究と社会活動の両方を試みる取り組みはとても勉強になります。

 島谷幸宏先生(本県立大学)は河川工学の専門家。その立場から、生物の生息地の再生につながるような多自然川づくり、生物多様性に配慮した流域治水などに貢献しています。

 続いて、生物多様性の主流化という点で活躍を期待しているのが、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさん、YouTubeチャンネル「マーシーの獲ったり狩ったり」のマーシーさん、テレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」に出演中の桝太一さんです。さかなクンもまさにパイオニアとしてそういう役割を果たしてきた人物ですが、科学的知見をベースに、説教がましくなく、楽しくフラットな情報発信をしている方々です。

 これは環境問題の難しさでもありますが、生き物を滅ぼしたくて滅ぼしている人というのはいません。ダムの造成や農地整備で生き物のすみかがなくなることはありますが、ダムや農地も社会にとって必要なもの。関係各所と落としどころを探りながら合意形成をしていくわけですが、そのためにも、まずは生物多様性の大切さを広く知ってもらう必要があります。研究で得られた知識を一般に翻訳して伝える、つなぐ役割をする彼らのような存在は欠かせません。

 最後に、実践的な活動で評価したいのがNPO法人生態工房(理事長:片岡友美/事務局長:佐藤方博)。池の水を抜く「かいぼり」によって水辺の生態系を再生する活動を続けています。

 一般社団法人Change Our Next Decadeの矢動丸琴子さんはCOP15にも参加し若者の立場から自然共生社会の実現を訴えています。若い人が自分ごととして伝えてくれるのは心強く、応援したいです。

 私の専門は淡水魚や水生昆虫です。子どもの時から各地を回って虫や魚を捕っていますが、住んでいる九州でもこの20年で急激にゲンゴロウやタナゴの仲間などが減りました。かつて九州各地にいたゲンゴロウは、現在では2地域でしか生き残っていません。有明海周辺で日常的に食されていたアゲマキという貝は、いまや幻の食材です。でも、生物資源は枯渇資源である石油などと違い、一旦減っても、減った原因を解決すればまた増やすことができます。

 生き物を食べずに生きている人はいません。生物多様性がもたらすさまざまな利益は、私たち全員が享受しているものです。

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