そんな前田は今季のオープン戦でも好投を続け、その力が健在であることをアピールしていた。チームも前田を開幕投手に指名するほど大きな信頼を置き、期待に胸を躍らせていた。だからこそ、不調が続いたことに、チームの首脳陣やミラー記者をはじめとする現地メディアは大きなショックを受けた。
今でこそ、右肘の故障が不調の理由の一つであったと言えるが、それが分からなかった当初は、現地メディアも必死にその原因を探っていた。
開幕戦直後に言及されていたのは、寒い気候による影響だ。ツインズの本拠地ミネアポリス(ミネソタ州)は、4月でも最高気温が摂氏4度前後で、時には降雪すらある地域だ。また、ツインズと同じア・リーグ中地区に所属する他のチームの本拠地も同様の気温であるため、「寒さによってパフォーマンスが落ちているのでは?」という推測もあった。また彼らは、他の理由も挙げていた。
それは4月に起こったチームメートの新型コロナウイルス感染による試合延期の影響だ。4月16日のエンゼルス戦の直後、ツインズでは主力選手を含む3名の新型コロナウイルス陽性が判明した。追加の検査と感染経路の特定を行うため、翌17、18日のエンゼルス戦は中止となり、19日のアスレチックス戦も延期されてしまった。20日にようやく試合が再開されたツインズは、その翌日(21日)に前田を先発に指名した。だが、その試合、前田は3回3被弾を含む8安打を許し、メジャー自己ワーストタイの7失点を喫し、3回で降板してしまっている。
当時は、「調整が不十分だったことが炎上の理由だ」とされていたが、ミラー記者は、「この時から彼の肘にはすでに異変があったのでしょう。そして、それが彼をひどく悩ませていたのに違いありません」と推察し、「このオークランド遠征が(前田の)全てを変えた」とまで断言する。また、同記者は前田に異変の兆候があったことも明かしている。
「マウンド上のケンタは試合を操り、打者に打つチャンスを与えないほど支配的なオーラを放っていました。しかし、それが見られなかった。また、良い状態であればスライダーを警戒する打者を圧倒できるほどだった速球は、80マイル(約128キロ)台と安定性も欠けていた。そんな彼に対し、私は『何かがおかしい』と思っていました」(ミラー記者)