コミュニケーションを考える上で重要なポイントの一つに「時間」があるという。話し言葉では、「話す時間」と「聞く時間」は同じ長さだが、書き言葉では、「読む時間」より「書く時間」のほうが圧倒的に長くなる。

「ある人が2時間かけて書いた手紙でも、読むのは一瞬で、書き手と読み手の間には、時間の著しい不均衡が生じます。しかし、スマホの普及によって、短い文面の瞬時のやりとりが可能になり、その差がぐんと縮まりました。そこに対話のような断片的な言葉のキャッチボールが起こり、『話し言葉を書く』という新しい文化が生まれたのです」

 だが、落とし穴もある。スマホによる文面のやりとりは文字である。よく知らない相手に唐突に断片的な言葉を投げかけても、相手は情報不足で理解ができない。中村さんの例でも、ワーキングホリデーを巡る情報不足に問題があった。

「情報不足はコミュニケーションを阻害しますが、情報は多いほうがよいとは限りません。相手が必要としない情報は無駄になりますし、短い文章でも内容を簡潔に伝えられます。日本語では俳句や短歌のように短い言葉で豊かな日常を伝える文化が発達し、その伝統はツイッターにも引き継がれています」

 では、短い文章のやりとりで自分のメッセージを相手に的確に伝えるにはどうすればよいのだろうか?

「ポイントは二つ。一つは、情報の背後にある“目的”を相手に伝えることです。目的は読み手の理解を助ける効果があります。中村さんの例では、“何のために”ワーキングホリデーに行きたいのかを伝えれば、適切な回答が得られていたはずです。もう一つは、自分の文章を読んだ人の反応を考えることです。知らない相手に質問をする場合、自分が相手の立場ならどう理解してどう返信するか、返信の文面まで想定して質問を書くことです。送信する前に、“読み手のフィルター”を通して送信文面をチェックしておくだけで文章の質はかなり違ってくるでしょう」

次のページ