「短い文章のキャッチボールに慣れている人からすれば、『長い』と感じてしまう人もいるようです。ある人から『いきなり長文を送って無視されたら嫌だという感情が働いたのでは?』と言われたのですが、そんな側面もあったのかもしれません」

 最近はコスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)という言葉があるように、効率を追求し、無駄を排除したい気持ちが働いているのかもしれない。中村さんが続ける。

「失敗したくない、無駄なことをしたくないという気持ちがあると、自分で考えて調べるよりも、知っていそうな人に聞いたほうが早いし、確実です。だから軽い気持ちで僕に『どうですか?』と聞いたのかも?とも考えてみたのですが、実際のところはわかりません」

 中村さんは、ツイッターで後輩を「無礼だ」とさらし者にしたかったわけではない。コミュニケーションの取り方や受け止め方には個人差があり、メールやLINEなどのツールによって違いがあることに気づき、そのことを発信したところ、思いがけない反響になったと振り返る。

「この後輩に限らず、いきなり『おすすめの本は何ですか?』などと聞かれ、モヤモヤしたことは以前にもありました。今回、反響が大きかったのは、同じようなことを感じていた人が多かったから。短いやりとりを積み重ねるタイプの人がいることがわかっていれば、今後は感情に流されることもなく、対応しやすくなります。コミュニケーションのあり方や方法についてもいろいろ考えることができました」

 もちろん、決してチャットが“悪者”というわけではない。気軽にやりとりでき、会話のように楽しめるなど、利点が多いからこそ、新たなコミュニケーションツールの一つとして利用者が急増している。

 国立国語研究所教授で日本語研究者の石黒圭さんは、日本語は短い言葉でもコミュニケーション可能な言語だと指摘する。

「日本語の話し言葉は、きちんとした文章を組み立てなくても、『ご注文は?』『生中で!』で通じる言語です。チャットのような断片的なコミュニケーションに向いていると言えます」

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