しかし、この甘利氏には「政治とカネ」をめぐる足かせがある。2016年1月、安倍政権下で経済再生担当相の頃、建設会社からの金銭授受を認めて大臣を辞任した経緯があるのだ。その後、刑事告発を受けた東京地検特捜部は甘利氏と元秘書を捜査するも不起訴とした。しかし、甘利氏本人はこの問題の経緯を今日に至るまで一切、公に説明していなかった。
甘利氏が幹事長に起用されたことを受けて、野党はこの問題で集中砲火を浴びせるのは間違いない。
もうひとつの党の要職「政調会長」には、岸田氏と共に総裁選を戦った高市早苗前総務相が就く。今回の総裁選で最も注目を集め、党内外にその存在感を示したのが高市氏だった。後見人の筆頭として旗を振ったのが安倍元首相だ。今回の総裁選で最も激しい多数派工作が展開されたのが高市陣営だったと、ある自民党議員の一人は証言する。
「安倍氏の号令のもと、議員の携帯電話に直電するのはもちろん、各議員の地元後援会にも高市氏に入れるよう要請がありました。もう、なりふり構わない印象でした」
■稲田氏の転向が好機
実は高市氏支持を表明した自民党議員の中に、意外な人物がいた。その人物とは保守からリベラルに転向したと党内では囁かれている、稲田朋美元防衛相である。
稲田氏は4カ月前、東京五輪を前に超党派で、LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案を取りまとめようとして失敗。この時、最後の最後でこの法案を阻止しようと総務会を動かしたのが安倍氏だったと言われている。
「あの稲田さんが高市さんを支持するとTwitterで表明した時、そういうことかと思いました。稲田さんは、LGBTなどの理解増進法案だけでなく、選択的夫婦別姓を党内で議論しようとするなど、保守でありながら自民党の古い体質を変えようとしてきた人。ある意味で高市さんは、稲田さんの自民党内での転向をチャンスに、安倍さんの掲げる保守主義色の強い政治思想に共鳴し、寵愛(ちょうあい)を受け、総裁選立候補に至ったという経緯があります」