![ロケ地は白馬の廃村。スタッフ総出で畑を開墾し、作物を育てた。「旬のものはそれだけでおいしい。雪解け水の中に最初に出てくる水セリには本当に生命力があるんです」と監督。食に向き合うことは、その瞬間を大切に生きることにつながる。映画にはそんな人生の滋味と哲学がつまっている(photo(c)2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/a/9/840mw/img_a93778274dff3c4fdeefbe8bdcd5644091124.jpg)
撮影は1年半、ほぼドキュメンタリーのように四季を追いました。僕は農学部の出身ですが、学生時代から映画ばかり撮って全く勉強していなかったので(笑)、畑作りは大変でした。あの場所で何が一番豊かだろうか、と土井さんとも相談し「水」に行き着いた。だからツトムの台所には常に湧き水が流れています。それは日本人の根底にある美学にも関係します。
僕自身も普段は東京でコンビニの夕食をむしゃむしゃ食べる生活です。健全とは思えないけれど、でも東京とこの信州での暮らしを比較することはやめようと思った。いわゆる「丁寧なくらし」のようなものには抵抗があるんです。文明がいくら発達しても人間の営みは変わらない。ここにあるのは「当たり前で普通のこと」。それが一番豊かなのだ、と感じとってもらえればいいなと思っています。(取材/文・中村千晶)
![中江裕司(監督・脚本)/1960年、京都府生まれ。80年に琉球大学農学部に進学すると同時に沖縄に移住。「ナビィの恋」(99年)、「ホテル・ハイビスカス」(2003年)ほか、近作に「盆唄」(19年)がある。全国で公開中](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/840mw/img_77b399b9457fbfb67149ef27072f9ee366531.jpg)
※AERA 2022年11月21日号
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