「今までなら、『就活に失敗してどうしたらいいのかわからない』というものが多かったのですが、今は『将来像が見えず、精神的に不安定になって就活に臨めない』など就活前から大きな不安を訴える人が増えてきました」
◆長引くコロナ禍で経済的な悩みが発展
ほかにも夫からのモラハラや、離婚して頼る人が誰もいなくて死にたいなど孤立感を抱える深刻な相談や失業中の人からの相談も増加した。
「コロナで職を失い、再就職もうまくいかず、経済的にひっ迫し、生活が立ちゆかず、苦しいという相談もかなりあります」
それまでは、なんとかもちこたえていたが、コロナの終息が見えないなか、いよいよそれが困難になり、死にたい気持ちが増幅されているのではないかともいう。
「一時的に生活保護に頼ってみるのも方法のひとつだと思いますが、一度そういう制度に頼ると、『自分がもう人並の生活が営めなくなってどんどん堕ちていってしまうのではないか』、『社会から必要とされていなのではないか』と思うと頼れないという人が多いのです」
◆今まで「死」を考えたことがない人でも
コロナが流行する前には死を考えたことがなかったが、コロナによって死を考えるようなったというケースも多い。コロナ禍の昨年と今年はメンタルの不調を訴える人が例年以上に多くなり、新たに精神科を受診する人が増えたといわれている。
「特に今年に入ってから、眠れない、食べられないなど体にはっきりと不調が出てきて精神科に通院したという人や通院したいけど、診療まで2カ月ぐらい待たされ、つらいという相談がずいぶん増えました」
心身ともに健康な人でも現在のように人を会うことや移動が制限されているのはしんどいこと。ましてや心身に不調をきたしている人にとっては、こうした状況は圧迫感があり、生きにくいと想像がつく。
◆「電話すればいいんだ」心のよりどころでありたい
コロナが終息しても、「つらい」「死にたい」気持ちを抱えている人がゼロになるわけではないだろう。むしろ増加するかもしれない。そんなときこそ、自分の心のうちを話せる場所が必要だ。
センターの相談時間は制限があるわけではなく、長いと1時間以上になるケースもあるというが、平均は30分ぐらいだそう。
「悩んでいる人は24時間そのことを考えているわけで、20~30分話したくらいで解決するわけがありません。以前、きょうだいの中で自分だけが母親から、虐待まがいの仕打ちを受けていて、今でもそれがトラウマになって死にたいという相談を受けたことがありました。話の中で私が疑問に思ったことを聞いてみたら、『そんなこと今まで考えたこともなかった。驚いた』という返答だったんです。相談員の何気ない一言でいつも同じ方向に向いているベクトルや視点が変わり、気持ちが少し整理できるのだと思います。そして考え方に少し幅が出て、ラクになる、それが話すことの意味なのかもしれません」
耳を傾け、じっくりと話を聴く相談員は一定の研修を積んだ20~80歳のボランティアだ。団体名の「ビフレンダー」は自殺を考えている人、苦しみの状態にある人の友だち(friend)になる(be)になるというのが由来だ。
「電話をかけてくる人の問題を解決することはできませんが、それでも、『死にたくなったら、あそこに電話すればいいんだ』そんな心のよりどころであり続けたいと思っています。そして自殺を思いとどまってくれる人が一人でもいればいいなと思いながら活動しています。もちろん、このような相談場所が必要のない世の中が理想ですけどね」
(スローマリッジ取材班 須藤桃子)
■東京自殺防止センター
電話番号 03-5286-9090
相談時間 午後8時~深夜2時30分まで(月曜日は午後10時30分~、火曜日は午後5時~) 年中無休
※岩手、あいち、大阪、宮崎、熊野にもある(ただし、熊野は現在活動休止)
相談時間・曜日は東京自殺防止センターのホームページ参照https://www.befrienders-jpn.org/