70年3月31日に赤軍派に乗っ取られた羽田発福岡行きの日航機「よど号」は、福岡空港から北朝鮮に向かうように指示されたが、途中でコースを変え4月2日、韓国の金浦空港に着陸した (c)朝日新聞社
70年3月31日に赤軍派に乗っ取られた羽田発福岡行きの日航機「よど号」は、福岡空港から北朝鮮に向かうように指示されたが、途中でコースを変え4月2日、韓国の金浦空港に着陸した (c)朝日新聞社

■「明日のジョー」の悲しき証明 よど号事件

 宣言の末尾にでてくる「明日のジョー」というのは、昭和45年(1970)当時、「少年マガジン」に連載されていた劇画の題名(正確には「あしたのジョー」)である。学生をはじめ劇画ファンに愛読されていたものだ。

 ストーリーは貧しい階層出身のボクサーが、試練を経ながら成長していくというありふれた展開である。しかし主人公ジョーの、チャンピオンになんども挑戦するプロセスは、全共闘世代に拍手をもってむかえられた。当時の彼らの行動原理と似ていたからだ。

 ジョーはリング上で、髪の毛が白くなり、肉体が一個の物体に化したかのように“燃えつきていく”。なにやら不鮮明な終わり方をするのだが、そこがまた人気を得た原因だともいう。

「よど号」乗っ取りの赤軍派幹部田宮高麿は、このジョーの姿に自らと8人の仲間を擬している。まるで田宮は、革命が成ったとき、自らは一個の物質と化して燃えつきていく、そういう運命にあるのだと覚悟しているように見える。これまで日本の革命運動に命を投げだそうとする者の宣言や檄文は、大体が、どれも悲壮で悲しみや怒りがもえたぎっており、ときにそれが抑えがたく噴出している。田宮の宣言のように、その時代のサブカルチュアを引用したものを見たことはない。そしてこの宣言のリズミカルさはどうしたのだろうか。

 昭和45年3月31日。羽田発福岡行きの日航機「よど号」(乗務員7人、田宮ら犯人を含めた乗客131人)が、富士山上空にさしかかった午前7時30分ごろ、前方にいた6人の男がいっせいに立ちあがった。

 左手にモデルガン、右手に日本刀をもっていた。手なれた様子で操縦室に入る者、スチュワーデス(編集部注・当時の呼称、現在の客室乗務員、日本ではCAなど)を脅かす者、乗客をなだめる者に分かれた。腰に登山ナイフとパイプ爆弾で武装しているひとりが、

「おれたちは爆弾をもっている。死ぬつもりだ」

 と威嚇する。そのあとは、彼らがつくりあげた脚本どおりに進んだ。

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