写真家・夢無子(むむこ)さんの作品展「皺む(しわむ)×WRINKLE UP」が10月19日から東京のキヤノンギャラリー銀座で開催される(大阪は12月14日~12月25日)。夢さんに聞いた。
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今回の写真展のテーマは、なんと「しわ」だ。
会場にはミャンマー人の苦悩の表情に刻まれたしわと、鹿児島県・屋久島で目にした巨木の樹皮のしわを組み合わせた作品が展示される。
そこに流れる屋久島で録音した水の音。合間には銃声が響く。
「いま、ミャンマーは戦争。人々が戦っているじゃないですか」と、夢無さんは言う。
世界中がコロナ禍への対応に追われていた今年2月、ミャンマーで突如、軍事クーデターが起こった。軍の発砲などにより、これまでに1000人以上の市民が亡くなったといわれる。
「アーティストとして、自分にはいくつかキーワードがあって、その一つが時代性。時代とリンクしながら作品をつくっていく。もう一つはエンターテインメント性。それが自分の中にはすごくある。あと、自由かな。ははは」
そう、まくし立てるように語ると、夢無さんは声を上げて笑った。
■しわをテーマにした理由
夢無さんがミャンマー最大の都市、ヤンゴン近郊にある「タバワ瞑想センター」を訪ねたのは2019年。
「そこには社会から見捨てられた人たち、2万人くらいが住んでいた」
このホームレスのための巨大なシェルターはミャンマーの僧侶、セヤドー・ウ・オタマサラ氏が開設したもので、孤児や高齢者、障害者、難民らを受け入れるとともに、仏陀(ぶっだ)の教えを説いていた。
この施設を訪れた理由について、「見たことのない世界を見たかったから。単純に好奇心だった」と言う。
そこで撮影したモノクロ写真の1枚にはベッドに横たわる男性の顔が写っている。ぎろりと見開いた目に、伸びたひげ。口にはストローをくわえている。
「シェルターに住む4000人くらいは全身不随で、まったく動けなかった」
少数民族が多く暮らすミャンマー北部から逃げてきたおばあさんにも出会った。
「いきなり村に軍が来て、全員殺されて、自分の4人の子どもも死んじゃった、と言う」