『ネアンデルタール人は私たちと交配した』(スヴァンテ・ペーボ著 野中香方子訳)2015年刊。スヴァンテ・ペーボは、2022年ノーベル生理学・医学賞を受賞。
『ネアンデルタール人は私たちと交配した』(スヴァンテ・ペーボ著 野中香方子訳)2015年刊。スヴァンテ・ペーボは、2022年ノーベル生理学・医学賞を受賞。

「またしても下山さんが探してこられた著者が受賞!」

【この記事の画像の続きはこちら】

 翻訳家の櫻井祐子さんの10月3日午後6時53分のツイートがたまたま目に飛び込んできて、自分が2014年に権利を取得した『ネアンデルタール人は私たちと交配した』の著者スヴァンテ・ペーボがノーベル生理学・医学賞を受賞したことを知った。

「またしても」というのは、櫻井さんが訳した『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』のジェニファー・ダウドナが、2020年にノーベル化学賞を受賞したことを指す。これも確かに自分が、2016年に権利を取得し、「ノーベル賞最有力」との帯で2017年に出した本だ。

 これらは、まだ自分が編集者だった時代の話。今回はその自慢話をしようというわけではない。実はこのふたつの本とも、あるひとつの著者エージェントから権利を取得している。その科学専門の著者エージェントについて書こうとしている。

 欧米では、著者は、まず著者エージェントに自分が書こうとしている本の権利を預ける。著者エージェントは、出版社に売り込み、出版社はアドバンスという印税の前渡し金を払って権利を取得する。

 欧米のエージェントは英語が苦手な日本の出版社の編集者とのやりとりがたいへんなので、サブ・エージェントという日本の著者エージェントに日本語版の権利の売り込みについてはまかせている。

 ところが、そのエージェント「ブロックマン」は、タトル・モリや日本ユニなどの日本のサブ・エージェントを使っていなかった。

 私は2006年に翻訳出版の責任者となったが、この「ブロックマン」の連絡先を調べてフランクフルトやニューヨークでアポをとるようになったのは、かなり遅い。

 が、アポをとって、「ブロックマン」が持っている企画書のリストを見るようになって、もっと早くから会っていればよかったとひどく後悔した。それほど、自分にとってはきら星のような企画が目白おしだったのだ。

著者プロフィールを見る
下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

下山進の記事一覧はこちら
次のページ