(AERA 2021年10月25日号より)
(AERA 2021年10月25日号より)

■「インフル」にするには

 錠剤で、1日1回、5日間服用する。新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染して増殖する際に、新たなウイルスを作るのに必要なたんぱく質が正しく合成されるのに欠かせない酵素「プロテアーゼ」の働きを阻害し、ウイルスの増殖を妨げると期待されている。

 同社は最終段階の臨床試験終了に先立って生産体制を準備しており、来年3月までに100万人分生産する計画だという。

 米大手製薬企業ファイザーやスイスの大手製薬企業ロシュも経口治療薬を開発しており、現在、最終段階の臨床試験を実施中だ。ロシュの経口治療薬は中外製薬が国内の開発と販売権を取得している。

 ロシュの経口治療薬は、RNAポリメラーゼの働きを阻害するように設計されている。ファイザーの経口治療薬はプロテアーゼを標的にしている。

 新型コロナウイルスがインフルエンザと同じような感染症として扱われるようになるには、重症化を防ぐ経口治療薬以外にも、いくつかの条件が必要だと松岡・本大教授は指摘する。

「まず、軽症患者が飲む薬は発症後、できるだけ早く飲み始めないと効果が期待できないので、発症後に速やかに診断できる体制が必要です」

 重症化を防ぐ抗体医薬品や経口治療薬の多くは感染初期のウイルスの増殖を抑えることを目標に開発されている。抗体医薬品は発症7日以内、経口治療薬は発症5日以内の使用開始が条件だ。しかし現状では、発症から1週間ほど経って診断される人が少なくない。早く診断できないと、薬があっても使えない。

 松岡教授が挙げるもう一つの条件は、重症患者に対する治療薬の開発だ。重い中等症や重症の患者を対象に特例承認された薬は何種類かあるが、すべての重症患者を救えるわけではない。

「ワクチン接種率が上がるにつれ重症患者は減っていますが、ゼロにはなっていません。現時点では、まだ新型コロナウイルスの致死率はインフルエンザよりも高いので、インフルエンザのように対応できるようになる前提としては、重症患者を救えるような薬の開発も必要です」

(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年10月25日号より抜粋

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