立憲民主党の小川淳也氏を追ったドキュメンタリーで注目を浴びた、大島新監督。続編では来たる総選挙でのライバルとの戦いを描く。AERA 2021年10月25日号では大島監督にインタビューした。
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──映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編「香川1区」の制作に入ったそうですね。
「なぜ君」は予想もしない反響を呼び、続編を望む声が多く届きました。ただ、小川淳也衆議院議員を追い続けるにしても、少なくとも4~5年、場合によっては10年スパンの撮影を考えていました。舞台挨拶で半ば冗談、半ば本気で「これからも長く小川氏の撮影を続け、次回作のタイトルが『まさか君が総理大臣になるとは』になるといいなぁと思っています」などと話していたくらいです。
──続編を撮ろうと思ったきっかけは、2020年9月の野党合流による新しい立憲民主党の結成と、菅義偉政権の誕生だったと聞いています。
この時、一部の中堅・若手議員から「小川氏を合流新党の代表選挙に」との声が上がりました。結果として小川氏は「自分は選挙区で当選していない」として名乗りを上げず、枝野幸男氏と泉健太氏の一騎打ちになりました。その過程で、小川氏は改めて選挙区で勝っていないという弱点を意識せざるを得なくなりました。党内で「選挙区で勝ったか否か」は、影響力が雲泥の差なのです。
一方、菅政権が誕生すると、小川氏のライバルである自民党の平井卓也氏がデジタル改革担当大臣に就任したのです。驚きました。同じ選挙区で戦う相手が菅政権の看板大臣になるとは、小川氏にとって青天の霹靂だったと思います。保守地盤の香川県では「大臣」の名前は絶大です。映画が少々ヒットして話題になった程度では、とても太刀打ちできない。実際、小川氏はこの時期「人生と書いて試練と読む、という思いです」と私にこぼしていましたから。
■同じ地盤だが対照的
──そもそも、同じ香川1区を地盤にしながら、これほど対照的な政治家も珍しいですよね。二人の選挙戦を、今回は平井陣営にもカメラを向けて取材を行えば、日本の有権者の意識というものが見えてくるのではないか……。そう思われたのですね。
平井氏は3世議員で、祖父も父も大臣を務めた政界のサラブレッド。加えて平井家は、県内のシェア6割強を誇る四国新聞や、西日本放送のオーナー一族で、「香川のメディア王」でもあります。美術館や私立高校の経営も一族が担うなど、影響力は絶大です。平井氏自身も、大学卒業後は大手広告会社の電通に勤務し、その後、29歳の若さで西日本放送の社長に就任します。いわば“銀の匙をくわえて生まれてきた”人物です。