なるほど、であれば客観的なナレーションは不要になる。客観という言葉には「第三者」「他人事」という意味もあるのだから。
「国家というものは嘘をつくものなのか?」と訊くと、「権力があるところに腐敗は存在する。重要なのはプレスの機能。権力はまずプレスを滅ぼそうとする。プレスが独立した強固なものであり、記者も勇気を持っていないといけないのです」と監督がZoomで答えてくれた。
「映画というものはジャーナリスティックであり得るし、ジャーナリストの調査報道もサポートできる」
惨劇、隠蔽、脅迫と全てが事実のこの作品、当局から盗聴されていたと知るや、監督は素材を国外に運び出したという。
「(事件を追う記者は)暴露の渦に入り込み、政府の最高レベルまで手が届いていた。その全ての段階を追った私もリスクを負っていました」
世界各地で権力による報道の抑圧が広がる中、人権侵害や汚職の政権批判を続けたとして、ロシアとフィリピンの2人のジャーナリストのノーベル平和賞受賞が決まった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年10月29日号