Matteo Garrone/1968年、伊ローマ生まれ。代表作に「ゴモラ」(2008年)、「ドッグマン」(18年)photo 2019(c)ARCHIMEDE SRL - LE PACTE SAS

 監督の作品には、イタリアのマフィア社会を描いた「ゴモラ」や実事件をモチーフにした「ドッグマン」などハードな社会派テイストと、「五日物語─3つの王国と3人の女─」のような寓話(ぐうわ)をベースにしたものがある。

「現代的なモチーフからはおとぎ話的な要素を、おとぎ話からはじまるものはそこから現代に通じる要素を、それぞれ引き出そうとしている。どちらの場合も描きたいものは人間の内面や矛盾、葛藤について。それは誰にとっても自分に近く、共感できるものだと思う。私たちの人生には常に光と影がつきまとい、そこには笑いも残酷さもある。それらはまさにピノッキオの世界に表現されていることだ」

 それにしても、いま「ピノキオ」は熱い。ギレルモ・デル・トロやロバート・ゼメキスなど名だたる監督による「ピノキオ」の企画も進行中なのだ。

■古典だけど現代的

「なぜ、いまピノッキオか? うーん、わからない。二人とも僕よりはるかに有名な監督だしね(笑)。ただ140年も前に書かれたこの物語は、とても現代的な要素を含んでいると思う。父と息子の関係を描いた家族の物語であり、自分勝手だったピノッキオが人を愛し、人のために自らを犠牲にすることを学んでいく過程は、ますます個人主義的になっていく現代社会で、我々が考えなくてはならない問題を示している。もちろん『甘い話にのってはいけない』という教えも含まれている」

 監督のお気に入りシーンは人形劇の一座の公演とおもちゃの国の場面。「実は息子がエキストラで出演しているんだ」とうれしそうにスマホで写真を見せてくれた。映画に込められた父から子への愛を、強く感じた。(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2021年10月25日号

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