
誰もがその名を知るピノキオ。でも本当の物語を知っていますか。映画「ほんとうのピノッキオ」のマッテオ・ガローネ監督に現代に放たれる、残酷にして美しい寓話について聞いた。AERA 2021年10月25日号に掲載された記事を紹介する。
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ピノッキオは19世紀後半、イタリア人作家カルロ・コッローディが発表した児童文学から生まれた。ジェペット爺(じい)さんが丸太から作った人形の男の子。嘘をつくと鼻が伸びてしまう……。誰もが知るキャラクターだが、そのストーリーをしっかり覚えている人は少ないのではなかろうか。マッテオ・ガローネ監督(53)もそうだったと告白する。
「イタリア人として原作には子ども時代から親しんできた。それに6歳で初めて描いた映画のストーリーボードがピノッキオの物語だったんだ。でも久しぶりに原作を読んだら、全く知らない話で覚えていないエピソードもかなりあることに驚いた」
■メイクで命を吹き込む
原作のピノッキオは欲望のままに行動しては、手痛い失敗を繰り返す。人形劇一座の親方に燃やされそうになったり、ネコやキツネにだまされて無残な姿で木につるされたり。広く知られるディズニー映画のピノキオに比べると、その世界はより深い示唆と残酷さに満ちている。
「原作に忠実に映画化することで、みんなの知らない“真のピノッキオ”を新しく発見してもらいたいと思ったんだ」
画家でもある監督が生み出した世界は、ダークにして魅惑的に美しい。ピノッキオや、巨大な殻を持つ侍女カタツムリなどの登場人物は、2度のアカデミー賞受賞歴を持つ特殊メイクアーティスト、マーク・クーリエによって命を吹き込まれた。
「特にピノッキオはCGを使わずにすべて特殊メイクで作っている。演じたフェデリコ・エラピは当時8歳だったけど、毎朝4時間のメイクをして3カ月間の撮影に臨んでくれた。彼はピノッキオとは違って、強い忍耐力の持ち主だったんだ」