写真家・中藤毅彦さんの作品展「エンター・ザ・ミラー」が10月29日から入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催される。中藤さんに聞いた。
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写真展のタイトル「エンター・ザ・ミラー」についてたずねると、中藤さんが1997年に出した初めての写真集と同じ題名という。
「今回の個展は原点回帰というか、レトロスペクティブ(=過去を振り返った)みたいなところがあります」
そう言うと、中藤さんは本棚から写真集『Enter the Mirror』(モール)を取り出した。
ページをめくると、深い黒が印象的なモノクロの東京の街が現れた。95年に開いた初個展の作品という。
「いま見ても悪くないと思うんです。でも、当時は批判が多くて。『森山大道は2人いらない』って。それは、乗り越えなければならない壁みたいなものでしたね」
森山さんはストリートスナップの大家として知られる写真家で、中藤さんは早稲田大学時代、森山さんの作品を見て、「すごく衝撃を受けた。写真表現って、こういうものか、と思った」。
大学を中退すると、東京ビジュアルアーツに入学。そこで講師を務めていた森山さんから写真を学んだ。
そんな経緯もあり、「やっぱり、当時は森山先生の影響が大きかったなあ」と、振り返る。
「その後は、もうちょっとスタンダードに撮ろう、と思った。画面を斜めにしたり、粒子を荒らしたり、ブラしたりとかじゃなくて。それで、自分なりの作風が確立したのが東欧を訪れた97年ごろ。それからの20数年はあっという間で、自分の中ではつい最近のことですね」
■「鉄のカーテン」の向こう側
今回の写真展はさまざまな都市の作品が並ぶ「比較都市論的な展示」だそうで、写真学校時代の93年に撮影した上海から、2019年の香港の作品まで、約260点が会場を飾る。
それは中藤さんの写真家人生をのぞき見るようでもあり、「その全貌を自分自身も見てみたい」と言う。