隣国、中国は「もろ中央集権なんだけれど、資本主義をうまく取り入れている」ように見えた。
中藤さんは93年、上海出身の写真学校の同級生が帰省する際、いっしょに中国を訪れた。
「当時の上海は大開発の前で、まだ人民服を着た人たちが自転車に乗って、戦後の日本みたいな感じだった」
ところが、「10年後に行ったら、テレビ塔がそびえ、超高層ビルもいっぱい建っていた。日本なら50年かかるところを中国は10年でやってしまった。その変わり方があまりにも激しかったので、すごくいいときに行けたと思いますね」。
■懐かしのニューヨーク
ちなみに、展示はニューヨークから始まる。
「『ザ・資本主義』のところから(笑)。やっぱり、都市がテーマなので、都市らしいイメージから」
97年に写されたニューヨークの写真を見ると、とても懐かしい思いがした。いまはなき世界貿易センタービルが写っていることもあるが、スラム化が問題だったころの古い街並みが思い出深い。中藤さんが憧れたウイリアム・クラインのニューヨークの作品とも重なる。
パリの写真はさらに暗い。そんな感想を伝えると、「いわゆる、おしゃれなパリじゃないですから」と言う。
古い石畳に横たわるホームレス。移民街の黒人。共産主義の旗を掲げ、社会正義を訴える白人。いまもフランスに根強く残る階級社会を感じさせる。
香港の作品は、市民の日常生活と、19年に撮影した民主化運動の写真を組み合わせている。
中国本土からやって来たことを思わせる古いスタイルの服を着た高齢者。子どもの手をつないで外出するニューファミリー。そして民主化闘争。この街の狭い土地にはさまざまな歴史が詰まっていることを実感する。
そして、東京の写真には批判されたあの初個展の作品も含まれている。
「まあ、人間に軸足を置いた、都市の写真ですね。ひと口に『都市』と言っても、いろいろな国がある。体制も違うし、民族も違う。同じ人間が撮っても、その地域に暮らす人々の持ち味みたいな、土地性が出たかな、というところはあります」
しかし、私はまったく別な感想を持った。暮らす街は違えど、人間はそんなに変わらないものだなあ、と感じた。
時を経てもたたずまいがあまり変わらない都市がある一方、上海やベルリンのように大開発が進んだ都市もある。
「これらの街はまだまだ続けて撮りたいんですよ。30年、40年のスパンで」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】中藤毅彦写真展「エンター・ザ・ミラー」
入江泰吉記念奈良市写真美術館 10月29日~12月26日