これまで撮影してきた都市のなかで圧倒的に多いのは東京だが、今回の展示では枚数を思い切って絞り、ほかの都市と同じように並べて見せる。
「ニューヨーク、上海、パリとか、大きなギャラリーの空間をパーテーションで区切って、小さな個展が連続するような感じにします」
そのなかで、異彩を放つのが、旧「東側」の都市。モスクワ、ワルシャワ、ブカレスト、ブダペスト、ソフィア、ベルリンなど、かなりの数だ。
理由をたずねると、「共産主義と資本主義というのが、大きな世界のとらえ方としてあった」と言う。
「自分には、体制の違いで国を見る、というところがすごくある。それを都市で比較できたら、と」
中藤さんが写真を始めたころの89年、ベルリンの壁が崩れ、東西ドイツが統一した。91年にはソ連が崩壊。「その衝撃がすごく大きかった」。
それまで、東側の国は「鉄のカーテン」の向こう側で、正体が知れないイメージがあった。
「そんなわけで、どんなところか、ちょっと確かめてみたいな、と思って、97年にベルリンを訪れたんです。すると、まだ共産主義時代の空気が濃厚に残っていた。それで面白くなって、ちょこちょこと東欧に通い始めた」
■キューバで感じた幸せ
ベルリンの一角を写した写真には、棺のようなオブジェが並ぶホロコーストを追悼する施設が写っている。「ベルリンの街自体が、それに通じるような感じでしたね」と、中藤さんは撮影当時を振り返る。
ソフィアやブカレストの街にはさらに陰鬱な空気が漂う。
「街も荒れていて、暗かった。この、ばかでかい建物は、あのチャウシェスクの宮殿です」
北朝鮮とも深いつながりがあったことで知られるチャウシェスク大統領は東欧革命の際、民衆の怒りのなかで処刑された。
「共産主義の総本山だったモスクワ」も訪ねた。
その写真を見て面白いと思ったのは、いかつい服装に入れ墨をしたヒッピーやパンクといった感じの男たちで、彼らの姿を見ただけでは、それがどこで撮られたのか、まったく分からない。
一方、「ずっと意地を張りとおしている現役の共産国、キューバも見たかった」。
「実際に行ってみると、経済はガタガタで、人々の暮らしは非常に貧しかった。まともに働いたら1カ月の給料は5000円とかですから。でも、人はいいし、治安もいい。ほかの国とは違う幸せがあるんだろうな、と思いましたね」