「大学4年のときのことです。狼が夢に出てきたんです」
そう語るのは、昨年刊行した『ノースウッズ 生命を与える大地』で、土門拳賞を受賞した大竹英洋さん。北米の湖水地方で撮影を続け、注目度急上昇中のネイチャー写真家である。
学生時代、写真家になろうと決意したが、何を対象にすればよいのか悩んでいた。そんな頃に見た夢は、深く脳裏に残った。その後でアメリカの写真家ジム・ブランデンバーグ氏が撮った狼の写真集を見て、
「弟子にしてほしいと思い、ダメ元でミネソタ北部まで会いに行きました。弟子入りは断られましたが、一緒に森の中で写真を撮る機会を得られたんです」
それを機に、ノースウッズと呼ばれる同地に魅了された。子育てをするホッキョクグマ、雄大な角を見せるカリブー、絶滅危機にあったバイソン、雪だまりの中に身を潜めるホッキョクウサギ、子育て中のカラフトフクロウ、メープルの樹液をなめるアカリスなどを撮ってきた。
「多様な生物がいますし、先住民の暮らしぶりも興味深い。人間とは何なのかを考えることができる場所です。20年ほど撮り続けていますが、この間、狼は十数回しか見ていません。狼はこちらに見られたとわかった瞬間に逃げ出すんです。無防備に食べている姿は撮れましたけど、顔の表情を見せてくれるポートレートはまだ。狼の撮影は、ライフワークとして続けていきたいですね」
(取材・文/本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2021年11月5日号