ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「松坂世代」という言葉について。

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「戦争を知らない子供たち」という曲がありますが、私は戦争(第2次世界大戦)も知らなければ、恥ずかしながらこの曲も知りません。戦争が終わって76年が経った今も、「世代観」の代表格と言えば「戦前生まれ・戦後生まれ」です。様々な事象にも「戦後最大の」とか「戦後最高値」といった冠が付きますし、日本人にとって「戦後か否か」は、最も大事な指標です。

 しかし今の若者を捕まえて「戦後生まれ」の自覚を問うても、もはや何もピンと来るものはないでしょう。今後の日本に起こり得る「戦後初」「戦後最大」と言ったら、さしずめ眞子さまのご結婚(一時金が支給されないのは戦後初らしい)ぐらいしか思い浮かびません。そうは言っても、日本における「歴史的」の基準が「戦前・戦後」であることは、まだしばらく続くと思われます。

 それ以外にも、世代を表すワードとしては「昭和・平成」「団塊」「学生運動」「沖縄返還」「バブル」「2000年」「ゆとり教育」「震災」などがあり、いずれも「前=旧世代」「後=新世代」といった分類がなされます。「団塊世代」の子供として、「沖縄返還後」に生まれ、「バブル後」に社会人になった私は、かろうじて若く新しい要素を持ちながらも、やはり46歳にもなると「旧式」の人間に分類されるケースがほとんどです。

 中でも、自分が「もう新しくない」ということを実感させられたのが、「松坂世代」なる言葉の台頭でした。それまでにも多くの「○○世代」がありましたが、ここまで浸透した「個人名を冠したジェネレーション」は、「松坂世代」が初めてなのではないでしょうか。「松坂」こと松坂大輔氏は、1980年生まれのプロ野球選手です。「松坂世代」という言葉は、彼が高校野球で活躍した98年からプロ入りした99年頃に生まれました。もちろん松坂選手の実力と存在感あっての言葉である一方で、「ついに80年代生まれがお金を稼ぐ時代になった」という意味合いも大いにあったのだと推察します。

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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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