総選挙ではほとんどの党が現金給付を公約に掲げ、さまざまな分配策を訴えた。果たして効果はあるのか。意見の異なる2人の専門家に聞いた。AERA2021年11月8日号の記事を紹介する。
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総選挙ではどの党も給付増や負担減を掲げ、「ばらまき合戦」の様相を呈した。だが、適正な成長と分配を図る全体像は見えてこない。
「予算のばらまきや負担を減らす政策でマイナスの影響を受けるのは国民です」
こう唱えるのは元財務官僚で明治大学公共政策大学院の田中秀明専任教授だ。中でも「効果が乏しい」と嘆くのが、公明党が掲げた「0~18歳の子どもすべてに所得制限なしで10万円を一律給付」する公約だ。
「一過性の一律給付では格差や貧困問題は改善しません」
安倍政権下の幼児教育・保育の無償化も、既に実施されていた低所得世帯の無償化を中高所得者に拡大したのが実情だ。
「中高所得者を助ける政策です。浮いたお金でさらに子どものお稽古ごとを増やせば格差はむしろ広がります」(田中さん)
田中さんは、GDPの約2.5倍に達する巨額な債務残高で日本がただちに財政破綻(はたん)することはない、と言う。なぜなら財政破綻した国々は、財政赤字と経常収支赤字の両方が膨らんだからだ。日本の経常収支は黒字で海外依存率も低い。それは日本人の貯蓄に支えられているからだ。ただ、高齢化が進めば高齢者の貯金も減っていく。
「経常収支が赤字になるのは5年か10年先、もっと早いかもしれません。それまでは『ゆでガエル状態』が続きます」(同)
イノベーションが起こらず、賃金も上がらないまま徐々に沈んでいく日本経済を、田中さんは「ゆでガエル状態」と呼ぶ。
日本ではバブル崩壊以降、財政依存体質が続いたことが民間の活力を削ぎ、経済活性化を阻んだ。こう指摘する田中さんが対比で示すのはスウェーデンだ。
■成長による分配を達成
スウェーデンは1990年代以降、市場メカニズムを重視し、労働市場改革などさまざまな構造改革を進めつつ、財政健全化と社会保障制度の見直しを図った。リーマン・ショック後、日米などとは異なり、スウェーデンはボルボやサーブなど自動車産業を救済しなかった。そうした企業を政府が救済すれば、産業構造の転換が遅れるからだ。一方で失業者など個人は職業訓練などで支援し、新しい産業に移れるよう環境整備を図った。